べし

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

日本語[編集]

語源[編集]

古典日本語: べし

助動詞: 現代語[編集]

べしし】

  1. 他に強制する意味を表す。命令。
    • 社長は、計画を実行す(る)べしと仰った。
  2. (打消形で)禁止の意味を表す。
    • 芝生に立ち入るべから
  3. 義務。至当性。
    • 一刻も早く撤去す(る)べきです。
    • もっと勉強しとくべきだった。
  4. 必然的ななりゆきを表す。
    • 然るべき時に行くことになるだろう。
    • この事件は起こるべくして起きた。
  5. ふさわしいこと、値することを表す。妥当性。
    • この件を相談すべき人が見つからない。
    • 恐るべき人物だ。
  6. 目的や目標を表す。
    • 販売ノルマを達成すべく全力を挙げる。
  7. (「なるべく」「べくんば」などの限られた連語・複合語の形で)可能や可能推定の意味を表す。~することができる。~することができそうだ。

接続[編集]

  • 動詞助動詞終止形に付く。
  • サ変動詞との接続「~するべし」の例は、そのサ変動詞が普通はサ行五段動詞で用いられることがないような動詞であっても、文語調の「~べし」の形でもよく用いられる。

活用[編集]

活用は古語のク活用形容詞型に同じ。ただし、現代語としての(現代文の中で使われる)助動詞「べし」の活用形は、古語としての助動詞「べし」よりも限られている。

未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形 活用型
べから べく べし べき (無し) (無し) ク活用型
  1. 未然形、べから:打消しの助動詞「」が続く
    • 1918年、和辻哲郎「『偶像再興』序言」[1]
      偶像破壊が生活の進展に欠くべからざるものであることは今さら繰り返すまでもない。
  2. 連用形、べく:文を途中で中止する
    • 1913年、大杉栄「新しい女」[2]
      彼女等は真に人たるべく、何よりも先きに高等教育や高等職業やまたは参政権を要求しない。
  3. 連用形、べく:係助詞「」+形容詞「ない」が続く
    • 1954年、北大路魯山人「欧米料理と日本」[3]
      かりに口になじむとしても、目に訴えて、心を喜びに導くような美しさは望むべくもないようだ。
  4. 連用形、べく:動詞「する」連用形+接続助詞「」が続く
    • 1955年、坂口安吾「砂をかむ」[4]
      五十ちかい年になってはじめて子ができるというのは戸惑うものである。できるべくしてできたというのと感じがちがって、ありうべからざることが起ったような気持の方が強いものだ。
  5. 連用形、べく:主題の係助詞「」が続く(連用形の体言化)
    • 2015年、大久保ゆう改訳、加藤朝鳥訳、アーサー・コナン・ドイル「橙の種五粒」[5]
      「ではホーシャムの館にお出で下さると?」「いや、真相はロンドンにある。探るべくはそこだ。」
  6. 連用形、べく:仮定の古語係助詞「」や、その音変化である「」「んば」が続く
    • 1943年、波多野精一「時と永遠」[6]
      吾々の研究はその自己理解その信念そのものを、なし得べくは、生におけるそれの源まで遡つて究め、かくてそれの眞の姿を明かにすることによつて、またそれの正しき理解を得るを目的とせねばならぬ。
    • 1933年、牧野信一「ベツコウ蜂」[7]
      僕が捕虫網を振りまはす心底は、云ひ得べくば、吾と吾が虚無を撓望する無惨な妄想へのための暴挙に他ならぬのだ。
    • 1944年、伊丹万作「映画と民族性」[8]
      説くものはまたいう。せりふの多い映画は不向きであるから、極力せりふを少なくし、動きを多くし、あたうべくんば活劇風のものを作れと。
  7. 終止形、べし:言い切り
    • 1931年、小林多喜二「テガミ」[9]
      此処を出入りするもの、必ずこの手紙を読むべし
  8. 連体形、べき:名詞が続く
    • 1927年、岸田國士「俳優養成と人材発見」[10]
      今日まで新劇に志した俳優のうちで、相当才能に富んだ人々があつたに違ひない。それらの人々は、何故に自分達の進むべき道をはつきり教へられなかつたか。
  9. 連体形、べき:助動詞「」「です」「だろう」などが続く
    • 1962年、山川方夫「非情な男」[11]
      いい加減に、彼女はそれに気づくべきだ。彼女は、相手の選択をあやまった、というべきだろう。
  10. 連体形、べき:主題の係助詞「」が続く
    • 1915年、寺田寅彦「科学上における権威の価値と弊害」[12]
      万一の危険を恐れれば地震国の日本などには住まわぬがよいというと一般なものである。恐るべきは権威でなくて無批判な群衆の雷同心理でなければならない。

複合語・連語[編集]

古典日本語[編集]

助動詞: 古語[編集]

べし【可し】

  1. 推量の意味を表す。~しそうだ。~だろう。
    • 空よりも落ちぬべき心地す。(竹取物語
    • 嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。(舞姬
    • 而モ尚交戰ヲ繼續セムカ (...) 人類ノ文明ヲモ破却スヘシ大東亞戰爭終結ノ詔書
  2. 予定の意味を表す。~するつもりだ。~することになっている。
  3. 当然の意味を表す。~するはずだ。
    • いでや、この世に生まれては、 願はしかるべきことこそ多かめれ。(徒然草第一段)
      いやはや、この世に生まれたからには、願わしいと思うはずのことが多いようですね。
  4. 適当の意味を表す。~するのがよい。
  5. 可能の意味を表す。~することができる。
  6. (終止形・打消)他に強制する意味を表す。~するほうがよい。
  7. (終止形)意志の意味を表す。
  8. 必要義務の意味を表す。~しなければならない。

接続[編集]

  • ラ変型活用を除く動詞、助動詞の終止形に付く。ラ変型活用の動詞、助動詞では連体形に付く。

活用[編集]

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 活用型
べから べく
べかり
べし べき
べかる
べけれ ク活用型

[編集]

  1. 青空文庫(2011年3月29日作成、2012年3月22日修正)(底本:「偶像再興・面とペルソナ 和辻哲郎感想集」講談社文芸文庫、講談社、2007(平成19)年4月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/files/49874_42655.html
  2. 青空文庫(2020年8月28日作成)(底本:「大杉栄全集 第14巻」日本図書センター、1995(平成7)年1月25日復刻発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000169/files/52157_71677.html
  3. 青空文庫(2009年12月4日作成)(底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所、2008(平成20)年4月18日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001403/files/49962_37766.html
  4. 青空文庫(2009年8月23日作成)(底本:「坂口安吾全集 15」筑摩書房、1999(平成11)年10月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/45739_36064.html
  5. 青空文庫(2014年3月25日作成、CC BY 2.1 JP公開)(底本:Arthur Conan Doyle (1891) "The Five Orange Pips")https://www.aozora.gr.jp/cards/000009/files/57322_57272.html
  6. 青空文庫(2006年11月15日作成)(底本:「時と永遠」岩波書店、1967(昭和42)年6月30日第8刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001011/files/42752_24929.html
  7. 青空文庫(2010年10月4日作成)(底本:「牧野信一全集第五巻」筑摩書房、2002(平成14)年7月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000183/files/45337_40782.html
  8. 青空文庫(2007年7月25日作成)(底本:「新装版 伊丹万作全集1」筑摩書房、1982(昭和57)年5月25日3版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000231/files/43868_27746.html
  9. 青空文庫(2002年2月19日公開、2005年12月12日修正)(底本:「日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集(七)」新日本出版社、1989(平成元)年3月25日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000156/files/2699_20747.html
  10. 青空文庫(2005年10月6日作成)(底本:「岸田國士全集20」岩波書店、1990(平成2)年3月8日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/files/44408_19906.html
  11. 青空文庫(2021年4月27日作成)(底本:「親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選」創元推理文庫、東京創元社、2015(平成27)年9月30日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001801/files/59976_73217.html
  12. 青空文庫(2005年3月16日作成、2016年2月25日修正)(底本:「寺田寅彦全集 第五巻」岩波書店、1997(平成9)年4月4日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/42693_18075.html