廃する

日本語

動詞

廃する (はいする)

1. (他動詞) 人をある地位から退かせる。
   • 1939年、久生十蘭「墓地展望亭」

     政略の動機は、スタンコウィッチ家のエレアーナ王女を廃して、ステファン五世の王甥、イヴァン・チェルトクーツキイを登位させるためです

   • 1942年、国枝史郎「ローマ法王と外交」

     ヘンリー四世の納まる筈はない。皇帝は怒ってウォルムスに宗教会議を開催し、グレゴリー七世法王を廃することに議決した。

   • 1952年、坂口安吾「安吾史譚」

     父帝が死ぬと、女帝はたちまち皇太子を廃してしまった。その理由は、先帝の諒闇中にも拘らずミダラな振舞いがあった、という甚だ女主人の潔癖を表すようなものであった。

2. (他動詞) 廃止する。
   • 1907年、丘浅次郎「理想的団体生活」

     今日の制度はみな人間の本来の性質に基因することで、人間がおのれの欲せざるところを他に施すという我欲を生まれながらに持っている以上は、法律も警察も必要であり、宗教も道徳も廃するわけにはゆかぬ。

   • 1935年、寺田寅彦「新年雑俎」

     いつか元旦か二日かが大変に寒くて、おしまいには雪になったことがあって、その時に風邪を引いて持病の胃に障害を起したような機会から、とうとう思い切って年賀廻りを廃してしまった。

   • 1951年、山本周五郎「竹柏記」

     そのうえ、（その結果というべきか）政治方面の改善について、布令を出し、諸種の役目の世襲制を廃して、人材登用の途をひらいた。

3. (他動詞) 行わない。止める。
   • 1910年、小川未明「扉」

     「私は、幾日か夜も眠らず、食を廃して研究して見ました。」

   • 1920年、泉鏡花「唄立山心中一曲」

     お察し下さい、これはほとんど私が生命を忘れ、世間を忘れ、甚しきは一人の親をも忘れるまで、寝食を廃しまして、熟慮反省を重ねた上の決意なのです。

   • 1935年、永井荷風「十六、七のころ」

     十六、七のころ、わたくしは病のために一時学業を廃したことがあった。

活用

廃-する 動詞活用表（日本語の活用）

サ行変格活用
語幹	未然形	連用形	終止形	連体形	仮定形	命令形
廃	し せ さ	し	する	する	すれ	せよ しろ

各活用形の基礎的な結合例

意味	語形	結合
否定	廃しない	未然形 + ない
否定	廃せず	未然形 + ず
自発・受身 可能・尊敬	廃される	未然形 + れる
丁寧	廃します	連用形 + ます
過去・完了・状態	廃した	連用形 + た
言い切り	廃する	終止形のみ
名詞化	廃すること	連体形 + こと
仮定条件	廃すれば	仮定形 + ば
命令	廃せよ 廃しろ	命令形のみ