徹する
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日本語[編集]
動詞[編集]
徹する (てっする)
- (自動詞) 他のことはせずそればかりに関わる。考えや態度を曲げない。
- 1934年、岡本かの子「仏教人生読本」[1]
- そしてその次に鋭き直覚力を掴まねばなりません。これにはいろいろ手段がありますが結局、本当の確信を掴むことです。何か一芸に徹することもよいでしょうが、仏教の信仰と修業とによって智慧を開く方法が最も正確でかつ可能なことの一つであろうと信じます。
- 1957年、柳宗悦「民藝四十年」[2]
- 文は「あや」と読む。紋様である。模様を描く場合「無地の心」を忘れてはならぬ。文であって文がないまでに徹せねばならない。文があって文がなくなる時に本当の文が生れる。
- 1959年、佐藤春夫「荷風先生と情人の写真」[3]
- 今度病床に就くに当ってもひとりで不自由とも心ぼそいとも思わないで、何不自由のない境涯を孤独に徹して最後の息を引取ったのもやはりただの剛情我慢以上の意志の強さを見せているように思える。
- 1934年、岡本かの子「仏教人生読本」[1]
- (自動詞, 文章語) (主に抽象的なものが)貫いてとおる。染み入る。
- 1929年、與謝野晶子「紅梅」[4]
- そつと枝を引き、脊伸びをして一つの花を嗅ぐこともある。ほのかながら心に徹する清い香である。支那の詩人が「寒香」と云つたやうな好い熟語の我が國語に無いのが惜まれる。
- 1936年、戸坂潤「思想と風俗」[5]
- 一を聞いて十を知るということは単に素質のよさを意味するには限らないので、教養に於ける関心・意欲・思想・の体系の働きだと考えてもいい。眼光紙背に徹するのも判りの良さも、共感の大きな能力も、理知的な自信も、皆ここから来る。
- 1950年、坂口安吾「安吾巷談」[6]
- 日本の新聞小説というものを書いていると、「二十五時」などゝシャレることはコンリンザイできません。毎日毎日が二十四時間しかないという怖しいキチョウメンさが骨身に徹するのである。
- 1951年、正岡容「吉原百人斬」[7]
- 恥を包まず申上げるが、じつは自分が生れも付かぬ松皮疱瘡になつたため、幼いときからの許嫁は、急に縁談を、破談にして来た。その口惜しさは、心魂に徹して忘れられない。
- 1929年、與謝野晶子「紅梅」[4]
- (他動詞, 文章語) (主に物理的なものが)貫いてとおる。染み入る。
- 1906年、牧野富太郎「利尻山とその植物」[8]
- この晩は幸にして晴天で、雨の心配はなかったが、風は中々強いので、寒気は膚を徹するというほどであった
- 1927年、宮本百合子「海浜一日」[9]
- 佐和子は、妹と並んで防波堤兼網乾し場の高いコンクリートのかげで、日向ぼっこをしていた。正月に、漁師たちが大焚火でもしてあたりながら食べたのだろう、蜜柑の皮が乾からびて沢山一ところに散らかっているのが砂の上に見えた。砂とコンクリートのぬくもりが着物を徹していい心持にしみとおして来る。
- 1938年、佐藤垢石「増上寺物語」[10]
- さき頃、二代廟の奥院の裏山から突然水銀が湧き出した。沖積層からできた愛宕山の地続きに水銀鉱があるはずはあるまいと、その道の人が調査したところ、秀忠の棺に詰めた朱が水銀に化して溢れ出し、これが地層を徹して露地へ湧き出したものと分かった。
- 1906年、牧野富太郎「利尻山とその植物」[8]
- (他動詞) (ほとんどが「夜を徹する」の形で)そのすべての時間を費やす。
- 1919年、宮本百合子「美しき月夜」[11]
- それは、この尊むべく、愛すべき女性は、一生を徹して、自分に保証された者であるという落付きである。この宝物を、彼の掌から奪う何ものも、この地上には存在を許されていない。ただ、自分だけが、彼女の唯一の愛の対照として生きることができる。
- 1925年、内田魯庵「二葉亭追録」[12]
- 二葉亭と交際した二十年間、或る時は殆んど毎日往来した。終日あるいは夜を徹して語り明かした事もあった。
- 1941年、織田作之助「青春の逆説」[13]
- 慌しい年の暮、頼まれた正月着の仕立に追われて、夜を徹する日が続いたが、ある夜更け、豹一がふと眼をさますと、スウスウと水洟をすする音がきこえ、お君は赤い手で火鉢の炭火を掘りおこしていた。
- 1919年、宮本百合子「美しき月夜」[11]
活用[編集]
サ行変格活用 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 |
徹 | し せ |
し | する | する | すれ | せよ しろ |
意味 | 語形 | 結合 |
---|---|---|
否定 | 徹しない | 未然形 + ない |
否定 | 徹せず | 未然形 + ず |
自発・受身 可能・尊敬 |
徹せられる | 未然形 + られる |
丁寧 | 徹します | 連用形 + ます |
過去・完了・状態 | 徹した | 連用形 + た |
言い切り | 徹する | 終止形のみ |
名詞化 | 徹すること | 連体形 + こと |
仮定条件 | 徹すれば | 仮定形 + ば |
命令 | 徹せよ 徹しろ |
命令形のみ |
註[編集]
- ↑ 青空文庫(2013年11月5日作成。底本:「仏教人生読本」中公文庫、中央公論新社、2001(平成13)年7月25日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/52342_51795.html
- ↑ 青空文庫(2014年2月14日作成。底本:「民藝四十年」岩波文庫、岩波書店、2011(平成23)年3月4日第29刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001520/files/54958_53049.html
- ↑ 青空文庫(2020年11月27日作成。底本:「定本 佐藤春夫全集 第26巻」臨川書店、2000(平成12)年9月10日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001763/files/59395_72293.html
- ↑ 青空文庫(2003年12月15日作成。底本:「定本 與謝野晶子全集 第二十卷 評論感想集七」講談社、1981(昭和56)年4月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000885/files/4291_14060.html
- ↑ 青空文庫(2001年8月23日公開。底本:「戸坂潤全集 第四巻」勁草書房 1975(昭和50)年9月20日第7刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000281/files/1710.html
- ↑ 青空文庫(2006年1月10日作成。底本:「坂口安吾全集 08」筑摩書房、1998(平成10)年9月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43183_21395.html
- ↑ 青空文庫(2008年12月16日作成。底本:「日本の名随筆 別巻15 色街」作品社、1997(平成9)年2月20日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001313/files/49304_34000.html
- ↑ 青空文庫(2010年2月4日作成。底本:「山の旅 明治・大正篇」岩波文庫、岩波書店、2004(平成16)年2月14日第3刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/49587_38164.html
- ↑ 青空文庫(2002年9月25日作成。底本:「宮本百合子全集 第三巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日第5刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/1968_6864.html
- ↑ 青空文庫(2007年4月2日作成。底本:「完本 たぬき汁」つり人ノベルズ、つり人社、1993(平成5)年2月10日第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001248/files/46789_26519.html
- ↑ 青空文庫(2002年1月2日公開、2003年7月20日修正。底本:「宮本百合子全集 第一巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日第5刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/2035_5837.html
- ↑ 青空文庫(2011年5月29日作成。底本:「新編 思い出す人々」岩波文庫、岩波書店、2008(平成20)年7月10日第3刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000165/files/49574_43497.html
- ↑ 青空文庫(2000年3月18日公開、2013年8月12日修正。底本:「定本織田作之助全集 第二巻」文泉堂出版、1995(平成7)年3月20日第3版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/2035_5837.html