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脱する

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』

日本語

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発音

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動詞

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する (だっする)

  1. (他動詞) 逃れる
    • 1917年、高浜虚子「漱石氏と私」[1]
      今から見ると写生写生といいながらなおその手法は殻を脱しない幼稚なものであるが、とにかく写生ということに着眼して、それを奨励皷舞したことはこの時代に始まっているのである。
    • 1934年、江戸川乱歩「黒蜥蜴」[2]
      窓から飛び出そうにも、ここは階上だし、そのそとは、グルッと建物でかこまれた内庭なのだ。一体全体、彼女はどんな方法で、この窮地を脱するつもりなのだろう。
    • 1937年、寺島柾史「怪奇人造島」[3]
      僕等を乗せた風船が、風に吹きつけられて、やっと、大渦巻の圏内を脱したとおもうころ、予期したとおり、いや案外にはやく麻袋の風船は、浮揚力を失って、大海原に墜落した。
  2. (自動詞) 逃げる抜け出る
    • 1908年、田山花袋「一兵卒」[4]
      この病、この脚気、たといこの病は治ったにしても戦場は大なる牢獄である。いかにもがいても焦ってもこの大なる牢獄から脱することはできぬ。
    • 1926年、岸田國士「俳優教育について」[5]
      これがつまり、わが国に於ける新劇俳優の技芸が、いつまでも素人の域から脱しない第一の理由であらう。
    • 1948年、太宰治「人間失格」[6]
      とても生きておられない屈辱でした。所詮その頃の自分は、まだお金持ちの坊ちゃんという種属から脱し切っていなかったのでしょう。
  3. (他動詞) 取り外す脱ぐ
    • 1910年、森鴎外訳、アルテンベルヒ「釣」[7]
      小娘は釣をする人の持前の、大いなる、動かすべからざる真面目の態度を以て、屹然として立っている。そして魚を鉤から脱して、地に投げる。
    • 1929年、谷譲次「踊る地平線」[8]
      前に言ったように、「モナコの岸」から美女マルセルが帰って来て、竹の子みたいに一枚々々着衣を脱して、そうして、そうして、ええと
    • 1935年、横光利一「上海」[9]
      彼は椅子から降りて一つの電話室を覗いてみた。送話器を頭から脱した青年が、ぐったりと腹部をへこませて、背部の電話のパイプのより塊った壁にもたれながら煙草を吸って休んでいた。
  4. (他動詞) 脱稿する。原稿書き終える
    • 1935年、永井荷風「雨瀟瀟序」[10]
      大正九年の夏築地より現在の家に移るに及び再び執筆の興を催し同年十二月の末に至りて稿を脱し得たり。
    • 1946年、林讓治「新憲法の解説 序」[11]
      幸にして前記諸君の非常なる御努力に依り短期間に稿を脱して公刊し得たことは、邦家の爲眞に感謝に堪えぬ所である。
  5. (他動詞) 脱字する。抜け落とす
    • 1946年、斎藤茂吉「万葉秀歌」[12]
      間人連老の作だとする説は、題詞に「御歌」となくしてただ「歌」とあるがためだというのであるが、これは編輯当時既に「御」を脱していたのであろう。

活用

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  1. 青空文庫(2009年12月28日作成、底本:「回想 子規・漱石」岩波文庫、岩波書店、2006(平成18)年9月5日第5刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001310/files/47741_37678.html
  2. 青空文庫(2016年9月21日作成、底本:「黒蜥蜴」江戸川乱歩推理文庫、講談社、1987(昭和62)年9月25日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/57405_60036.html
  3. 青空文庫(2006年7月20日作成、底本:「少年小説大系 第8巻 空想科学小説集」三一書房、1986(昭和61)年10月31日第1版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001084/files/42294_23835.html
  4. 青空文庫(2000年9月28日公開、2011年5月19日修正、底本:「蒲団・一兵卒」角川文庫、角川書店、1974(昭和49)年11月30日改版8版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000214/files/1066_43394.html
  5. 青空文庫(2006年2月18日作成、底本:「岸田國士全集20」岩波書店、1990(平成2)年3月8日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/files/44369_21792.html
  6. 青空文庫(1999年1月1日公開、2011年1月9日修正、底本:「人間失格」新潮文庫、新潮社、1985(昭和60)年1月30日100刷改版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/301_14912.html
  7. 青空文庫(2010年8月5日作成、2011年4月23日修正、底本:「於母影 冬の王 森鴎外全集12」ちくま文庫、筑摩書房、1996(平成8)年3月21日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001190/files/50913_40167.html
  8. 青空文庫(2002年12月9日作成、底本:「踊る地平線(上)」岩波文庫、岩波書店、1999(平成11)年10月15日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000272/files/4370_8018.html
  9. 青空文庫(2011年5月1日作成、底本:「上海」岩波文庫、岩波書店、2008(平成20)年5月15日第3刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000168/files/50899_42798.html
  10. 青空文庫2017年11月24日作成、2017年12月5日修正、底本:「雨瀟瀟・雪解 他七篇」岩波文庫、岩波書店、1991(平成3)年8月5日第6刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/58169_63328.html
  11. 青空文庫(2018年4月26日作成、底本:「新憲法の解説」内閣、1946(昭和21)年11月3日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001972/files/58905_64597.html
  12. 青空文庫(2008年7月23日作成、2020年9月12日修正、底本:「万葉秀歌 上巻」岩波新書、岩波書店、2002(平成14)年8月26日第92刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001059/files/5082_32224.html