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逸する

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』

日本語

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動詞

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する (いっする)

  1. (他動詞, 文章語) 〔ある領域方向〕から外れる
    • 1915年、寺田寅彦「方則について」[1]
      往々考えが形而上的に走り、罷り違えば誇大妄想狂となんら選む所のないような夢幻的の思索に陥って、いつの間にか科学の領域を逸する虞がある。
    • 1935年、佐々木直次郎訳、スティーブンソン「宝島」[2]
      突然、私の前にあるスクーナー船は激しく針路を逸して、多分二十度も曲った。するとほとんど同時に船中で叫び声が起り、続いて別の叫び声がした。
    • 1989年、太田健一「脳細胞日記」[3]
      常軌を逸した、けたたましい音で隼人はベッドから飛び起き、悪夢の緊迫がなお執拗に持続しているのをいぶかりながら頭が割れそうなのをこらえ、部屋中到る所に隠された十個の目覚し時計を一つずつ見出してはベルを消していった。
  2. (他動詞, 文章語) 貴重なものや価値あるもの〕を手に入れ損ねる取りこぼす
    • 1934年、倉田百三「愛の問題(夫婦愛)」[4]
      色情めいた恋愛の陶酔は数経験するであろうが、深みと質とにおいて、より貴重なものを経験せずに逸するなら、賢く生きたともいえまい。
    • 1940年、海野十三「地球要塞」[5]
      “〔…〕提督のために、私は、ちょっとした魔術をごらんに入れる。早く見られよ。さもないと、肝腎のいい場面を逸するであろう”
    • 1952年、中谷宇吉郎「大雪山二題」[6]
      洞穴の実験室の外では、望みどおりの雪が盛んに降っている。この機会を逸すると、又次の理想的な雪の日までには、何日待たなければならないかもしれない。
  3. (他動詞, 文章語) 視線〕を逸らす
    • 1925年、宮本百合子「或る日」[7]
      さほ子は、良人の顔を見た。彼は目を逸し、当惑らしく耳の裏をかいた。
    • 1960年、外村繁「落日の光景」[8]
      私は視線を逸していう。「乳癌なんです」「そうですか。とてもお元気そうですのにね」
  4. (他動詞, 文章語) 対する相手〕を逃がす取り逃がす
    • 1931年、吉川英治「牢獄の花嫁」[9]
      のっそりとそこにはいって来たのは、眉深な黒の頭巾に、黒の羽織、すべて黒ずくめに装った色の白い武士である。まさしく、加山と波越が増上寺で逸した、唖男の連れだというあの武士にちがいない。
    • 1941年、室生犀星「姫たちばな」[10]
      右左に別れた二人を見たときにも、基経はいずれも鶫を逸するであろうと、鶫の囀りのはたと歇んだときにそう思った。だが、その瞬間には鶫はもう射止められたのだ。

活用

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逸-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形

する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 逸しない 未然形 + ない
否定 逸せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
逸せられる 未然形 + られる
丁寧 逸します 連用形 + ます
過去・完了・状態 逸した 連用形 +
言い切り 逸する 終止形のみ
名詞化 逸すること 連体形 + こと
仮定条件 逸すれば 仮定形 +
命令 逸せよ
逸しろ
命令形のみ

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  1. 青空文庫(2006年7月13日作成、2016年2月24日修正。底本:「寺田寅彦全集 第五巻」岩波書店、1997(平成9)年4月4日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/42705_23761.html
  2. 青空文庫(2009年8月12日作成、2012年2月23日修正。底本:「漱石文明論集」岩波文庫、岩波書店、1956(昭和31)年6月30日第17刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000888/files/33206_35955.html
  3. 青空文庫(2018年5月30日作成、CC BY 2.1 JP公開、底本:「脳細胞日記」福武書店、1989(平成元)年6月15日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001955/files/58806_64274.html
  4. 青空文庫(2005年1月6日作成。底本:「青春をいかに生きるか」角川文庫、角川書店、1981(昭和56)年7月30日改版25版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000256/files/43128_17399.html
  5. 青空文庫(2004年5月31日作成。底本:「海野十三全集 第7巻 地球要塞」三一書房、1990(平成2)年4月30日第1版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/3239_15747.html
  6. 青空文庫(2017年2月3日作成。底本:「中谷宇吉郎集 第五巻」岩波書店、2001(平成13)年2月5日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/57307_60889.html
  7. 青空文庫(2007年8月14日作成。底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/15961_27926.html
  8. 青空文庫(2013年10月13日作成。底本:「澪標・落日の光景」講談社文芸文庫、講談社、1992(平成4)年6月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001499/files/51279_51588.html
  9. 青空文庫(2016年12月9日作成。底本:「牢獄の花嫁」吉川英治歴史時代文庫、講談社、1993(平成5)年11月19日第5刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/files/56046_60462.html
  10. 青空文庫(2013年11月5日作成。底本:「犀星王朝小品集」岩波文庫、岩波書店、2001(平成13)年1月16日第6刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001579/files/56459_51788.html