くそ

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日本語[編集]

名詞•形容動詞[編集]

くそ

  1. 大便排泄物
    • 唯、所々、崩れかゝつた、さうしてその崩れ目に長い草のはへた石段の上に、鴉のくそが、點々と白くこびりついてゐるのが見える。(芥川龍之介「羅生門」)〔1915年〕[1]
  2. (「くその」などの形で)ほんのわずかなこと。つまらないこと。なにがしか。
    • なるほど社会的地位のない人間なんてものは誠意ばかり溢れていてもクソの役にも立たんものだと、今更身に染みて私は我が身を嘆じたが、今更もうそんなことを考えたって始まるものではない。(橘外男「ナリン殿下への回想」)〔1939年〕[2]
  3. (名詞・形容動詞)ひどいこと。最悪なこと。
    • 一番楽しみなのは日曜だ。それも天気だと、朝から客が立込んで私は目が眩る程忙しいし、雪江さんもお友達が遊びに来たり、お友達の処へ遊びに行ったりして、私の事なんぞ忘れているから、天気はだ。(二葉亭四迷「平凡」)〔1907年〕[3]
    • そいつはなんだか屈み込んだ姿勢をしていて、見る者に、いつ何時今持っている獲物を捨てて、目に入ったもっとジューシーなごちそうに飛びかかるかもしれないと思わせるものがあった。だが、何よりクソなことに、その絵をしてあらゆるパニックの不滅の源泉としているのは、極悪非道な主題ですらなかった(H. P. ラヴクラフト「ピックマンのモデル」)〔The Creative CAT訳2015年〕[4]

活用[編集]

合成語[編集]

連語・ことわざ[編集]

訳語[編集]

  • 語義1:大便の項を参照

動詞[編集]

名詞:比較強意[編集]

くそ

  1. (係助詞「こそ」の転、「○○もくそもない」などの形で、○○が特定するまでもなく軽微であることを強調)…を考えるまでもない。…もなにも。
    • 私などは未だ三十歳を少し越えたばかりの群小作家のひとりに過ぎない。自重もくそも、あるもんか。(太宰治「花吹雪」)〔1944年〕[5]
    • ボクは天皇制そのものがなくならなきゃいかんと思っている。責任もくそも、どだい天皇制というものをボクは認めないんだ。(坂口安吾「スポーツ・文学・政治」)〔1949年〕[6]

類義語[編集]

感動詞[編集]

くそ (卑語)

  1. 腹が立っていることや苛立っていることを表す。
    • くそっ、えいっ。いまいましい。あんまりだ。(宮沢賢治「シグナルとシグナレス」)〔1923年〕[7]
    • くそッ! おれらをダシに使って記事を書こうとしてやがんだ!(黒島傳治「前哨」)〔1932年〕[8]
  2. 逆境苛立ちながらも自分を奮起させるときに用いる。
    • 「ドッコイショ――と」 天秤の下に肩を入れたが、三四日も寝ていたせいか、フラフラして腰がきれなかった。「くそッ」踏んばって二度目に腰を切ると[…](徳永直「麦の芽」)〔1930年〕[9]
    • くそくそ、負けてたまるか」丹治は狂人のようになっていた。彼はやたらに銃を揮り廻した。(田中貢太郎「怪人の眼」)〔1934年〕[10]

合成語[編集]

接頭辞 [編集]

くそ〜-・-】 (蔑称)

  1. 人を表す名詞の前に付いて、その人に対して腹が立っていることや苛立っていることを表す。
    • 無とは何だ。坊主めとはがみをした。(夏目漱石「夢十夜」)〔1908年〕[11]
    • それとも、お前に対して何か思うところのある、陪審員のくそじじいの仕業だとでも言うのか?(オー・ヘンリ「罪と覚悟」)〔大久保ゆう訳2003年〕[12]
  2. 名詞、形容詞、形容動詞の前に付いて、並外れたさまを表す。
    • なにィ、おい、お前は、くそおちつきに、おちついているじゃないか。(海野十三「地底戦車の怪人」)〔1940年〕[13]
    • ちえつ! くそ面白くもない!……頓痴氣め、よくもぬけぬけとこんなくだらないことばかり書けたものだ!(ニコライ・ゴーゴリ「狂人日記」)〔平井肇訳1937年〕[14]

派生語[編集]

接尾辞[編集]

くそ

  1. 生体器官の分泌物や付着物がまとまったもの。
    • 目くそ、鼻くそ、耳くそ、歯くそ。
  2. 否定的な言葉の後ろに付いて、意味を強調する。

[編集]

  1. 青空文庫(1999年6月9日公開、2010年11月4日修正)(底本:「新選 名著復刻全集 近代文学館 芥川龍之介著 羅生門 阿蘭陀書房版」ほるぷ出版、1976年4月1日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/128_15261.html 2019年6月1日参照。
  2. 青空文庫(2017年6月13日作成)(底本:「橘外男ワンダーランド 幻想・伝奇小説篇」中央書院、1995年4月3日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001397/files/51250_61981.html 2020年1月19日参照。
  3. 青空文庫(2003年1月15日作成)(底本:「平凡・私は懐疑派だ 小説・翻訳・評論集成」講談社文芸文庫、講談社、1997年12月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000006/files/3310_8291.html 2020年1月19日参照。
  4. 青空文庫(2015年9月20日作成、2015年10月19日修正)https://www.aozora.gr.jp/cards/001699/files/57341_57651.html 2020年1月19日参照。
  5. 青空文庫(2000年11月17日公開、2004年3月4日修正)(底本:「太宰治全集5」ちくま文庫、筑摩書房、1989年1月31日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1582_15079.html 2019年6月1日参照。
  6. 青空文庫(2009年1月26日作成)(底本:「坂口安吾全集 08」筑摩書房、1998年9月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43171_34359.html 2019年6月1日参照。
  7. 青空文庫(2008年3月25日作成)(底本:「セロ弾きのゴーシュ」角川文庫、角川書店、1993年5月20日改版50版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/2655_30646.html 2019年6月1日参照。
  8. 青空文庫(2001年9月3日公開、2011年10月9日修正)(底本:「黒島傳治全集 第二巻」筑摩書房、1970年5月30日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000037/files/1422_22365.html 2019年6月1日参照。
  9. 青空文庫(2008年12月4日作成)(底本:「徳永直文学選集」熊本出版文化会館、2008年5月15日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001308/files/49297_34001.html 2019年6月1日参照。
  10. 青空文庫(2010年10月20日作成)(底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社2003年10月22日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000154/files/45576_41060.html 2019年6月1日参照。
  11. 青空文庫(1997年12月16日公開、2013年7月17日修正)(底本:「夏目漱石全集10巻」ちくま文庫、筑摩書房、1996年7月15日第5刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/799_14972.html 2019年6月1日参照。
  12. 青空文庫(2014年3月24日作成)(底本:Henry, O. (1909) "A Retrieved Reformation")https://www.aozora.gr.jp/cards/000097/files/46342_23166.html 2019年6月1日参照。
  13. 青空文庫(2006年1月21日作成)(底本:「海野十三全集 第6巻 太平洋魔城」三一書房、1989年9月15日第1版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/3377_21542.html 2019年6月1日参照。
  14. 青空文庫(2004年11月19日作成)(底本:「狂人日記」岩波文庫、岩波書店、1938年1月30日第3刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000207/files/42284_16350.html 2019年6月1日参照。