散じる

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
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日本語[編集]

動詞[編集]

じる (さんじる)

  1. (自動詞)群衆などが)散るばらばらになって去る
    • 1909年、小川未明「黄色い晩」[1]
      楓の生垣をした村の細道を通り、暗い杉林の下に出たが、もはや遊んでいた子供等は、いずれも散じてしまって、誰もいなかった。
    • 1935年、フョードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー、米川正夫訳「罪と罰」[2]
      群衆は散じ始めた。巡査らはまだ身投げ女の世話をやいていた。誰やら警察がどうとかわめいた。
  2. (他動詞) (「を散じる」の形で)意識集中乱す
    • 1900年、国木田独歩「郊外」[3]
      一心不乱とはここの事だ、たとい耳のそばで狼がほえようが心を取り乱し気を散じないくらいでなければならないのが、森の奥でちょっと音がしたって、すぐそれに気を取られるようでどうするかと、
    • 1950年、坂口安吾「落語・教祖列伝」[4]
      息と息の間に隙間がないように、一息ごとに、積み重ねてはギッシリとよくととのえる。腹が終って胃へくる。ここの積み方が特にむずかしい。一手、気を散じると、軽い空気になってしもう。一息ごとに存分に押しつけて重く堅く積み重ねていかなければならない。
  3. (他動詞)などを)使う。使って無くす
    • 1910年、伊藤左千夫「去年」[5]
      それは何の苦もなくいわば余分の収入として得たるものとはいえ、万という金を惜しげもなく散じて、僕らでいうと妻子と十日の間もあい離れているのはひじょうな苦痛である独居のさびしみを、何の苦もないありさまに振舞うている。
    • 1951年、坂口安吾「安吾人生案内」[6]
      特に顔全体の大きな特徴を成している鼻によくない相がある。この種の鼻を持つ人は、金を稼ぎ出す力は持っていても、常に散じてしまう人である。

派生語[編集]

活用[編集]

さん-じる 動詞活用表日本語の活用
ザ行上一段活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形
さん じる じる じれ じよ
じろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 さんじない 未然形 + ない
意志・勧誘 さんじよう 未然形 + よう
丁寧 さんじます 連用形 + ます
過去・完了・状態 さんじた 連用形 +
言い切り さんじる 終止形のみ
名詞化 さんじること 連体形 + こと
仮定条件 さんじれば 仮定形 +
命令 さんじよ
さんじろ
命令形のみ

[編集]

  1. 青空文庫、2018年9月28日作成(底本:「文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船」ちくま文庫、筑摩書房、2010(平成22)年5月25日第2刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001475/files/53146_66112.html
  2. 青空文庫、2021年10月27日作成(底本:「罪と罰 上」角川文庫、角川書店、2008(平成20)年11月25日改版初版発行。「罪と罰 下」角川文庫、角川書店、2008(平成20)年11月25日改版初版発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000363/files/56656_74440.html
  3. 青空文庫、2004年9月25日作成(底本:「武蔵野」岩波文庫、岩波書店、1983(昭和58)年4月10日第47刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000038/files/42201_16624.html
  4. 青空文庫、2009年8月30日作成(底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房、1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/45891_36024.html
  5. 青空文庫、2006年7月18日作成(底本:「野菊の墓他六篇」新学社文庫、新学社、1982(昭和57)年6月1日重版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000058/files/1199_23801.html
  6. 青空文庫、2010年1月14日作成(底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房、1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/45923_37869.html