達する

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日本語[編集]

動詞[編集]

する (たっする)

  1. (他動詞) 果たすやり遂げる
    • 1934年、岸田國士「伊賀山精三君の『騒音』」[1]
      築地座の若い諸君が、殆ど配役の大部を背負つて、この戯曲を如何にしこなすか、「新劇再出発」に際して、これが相当有意義な仕事であつてくれれば、僕の希望は達せられたわけである。
    • 1949年、宮本百合子「平和をわれらに」[2]
      ひとのうちへ押し入って勝手な暴力をふるおうとするものが、よく電話線をきったりする。さるぐつわをかませる。手足をしばる。そして目的を達する。こういう行為は反社会的な犯罪とされている。
  2. (他動詞) (「を達する」の形で)〔小便大便を〕する
    • 1929年、小林多喜二「不在地主」[3]
      夜が長くなると、夜中に何度も小便に起きた。半分寝言を云いながら、戸をあけると、身体がブルンブルンッとすくむ。――秋の、深く冴えきった外はひっそりとして、月が蒼々と澄んでいる大空に、高く氷のようにかかっていた。――若い女でも、出口にそのまま蹲んで、バジャバジャと用を達した。
    • 1937年、海野十三「棺桶の花嫁」[4]
      雷門を離れると、もう真暗だった。そこで買って来た提灯をつけたお千は吾妻橋の脇の共同便所の前で、杜を待たせて置いて、また用を達しに入った。
  3. (他動詞)命令指示を〕伝える
    • 1932年、波立一「動員令」[5]
      休め! ハキハキしろ! 気をつけい! 命令を達する 当連隊に動員下令 要員の出発は十九日だ
    • 1939~1945年、吉川英治「新書太閤記」[6]
      風呂を出る間に、彼の胸には、きょうの合戦で働いた約三千余の将士に対する賞罰もきまっていた。すぐ林佐渡と、佐久間修理の二人へ、旨を達しておいた。
  4. (自動詞) 到着する。届く
    • 1904年、丘浅次郎「人類の誇大狂」[7]
      今日の望遠鏡を用ひて見れば十九等星、二十等星などと称する微な星までも見える故、その数を総計すると、少なく見積つても二千万以上は有らう。然して此等の星は地球からどの位の距離にあるかと云ふに、其の最も近いものでも、地球まで光線が達するには殆ど四年位を要する。
    • 1938年、海野十三「浮かぶ飛行島」[8]
      練習艦隊はシンガポールを出てからすでに三昼夜、いま丁度北緯十度の線を横ぎろうとしているところだから、これで南シナ海のほぼ中央あたりに達したわけである。
  5. (自動詞) 時間たり、労力費やした結果、〔物事がある状態に〕なる
    • 1917年、和辻哲郎「すべての芽を培え」[9]
      この時期には内にあるいろいろな種子が力強く芽をふき始めます。ちょうど肉体の成長がその絶頂に達するころで、余裕のできた精力は潮のように精神的成長の方へ押し寄せて来るのです。
    • 1955年、久生十蘭「ひどい煙」[10]
      稲富喜太夫は、父から稲富流の秘伝をうけて独得の技芸を身につけ、町打ちといって、大砲の遠距離射撃にかけては、名人の域に達していたが、[…]
  6. (自動詞)がある時期に〕なる
    • 1919年、与謝野晶子「教育の民主主義化を要求す」[11]
      第一には、教育が国民から孤立していることを改めて頂きたいのです。明治の初年このかた何事も官僚に由って切り盛りされねばならぬ未開時代にあったのですから、教育もまた官僚化したことはやむをえない歴史的過程であったでしょうが、今はもう教育の民主主義化を実現しなければならぬ時機に達していると思います。
    • 1938年、中谷宇吉郎「英国の物理学界と物理学者」[12]
      ラサフォード卿はこれらの研究について述べた後、「我々は今や研究の歩をさらに進めて、原子核の構造について討論をすべき時期に達したのである」と論旨を進め、原子核がα粒子と水素核とから成るという仮説の説明をしたのである。
  7. (自動詞) 〔想定外・予想外の大きな数値に〕なる
    • 1938年、岩波茂雄「岩波文庫論」[13]
      岩波文庫は平福百穂画伯の装幀をもって昭和二年刊行された。これを発表した時の影響の絶大なりしことは実に驚いた。讃美、激励、希望等の書信が数千通に達した。
    • 1944年、牧野富太郎「寒桜の話」[14]
      カンザクラというサクラの一種があって、学名をプルーヌス・カンザクラ(prunus Kanzakura, Makino)と称する。落葉喬木で多くの枝を分かち、繁く葉をつける。高さはおよそ一丈半くらいにも成長し、幹はおよそ一尺余にも達する
  8. (自動詞) 〔事前に決めていた数値に〕なる
    • 1937年、太宰治「思案の敗北」[15]
      約束の枚数に達したので、ペンを置き、梨の皮をむきながら、にがり切って、思うことには、「こんなのじゃ、仕様がない。」
    • 2018年、木村哲也、第197回国会衆議院[16]
      そして今、私立保育園は大体八十あるんですけれども、一〇〇%の定員に達しているのが四割しかない。六割が定員を切っているんです。
  9. (自動詞) (「結論に達する」の形で)〔ある結論を〕得る
    • 1922年、寺田寅彦「笑い」[17]
      結局自分の神経の働き方にどこか異常な欠陥があるのであろうという、はなはだ不愉快な心細い結論に達するのが常であった。
    • 1946年、佐藤垢石「烏惠壽毛」[18]
      腐らせるよりも、わが輩が呑んだ方に意味がある。こういう結論に達した。それから呑んだ呑んだ。

活用[編集]

達-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形

する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 達しない 未然形 + ない
否定 達せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
達せられる 未然形 + られる
丁寧 達します 連用形 + ます
過去・完了・状態 達した 連用形 +
言い切り 達する 終止形のみ
名詞化 達すること 連体形 + こと
仮定条件 達すれば 仮定形 +
命令 達せよ
達しろ
命令形のみ

[編集]

  1. 青空文庫、2009年9月5日作成(底本:「岸田國士全集22」岩波書店、1990(平成2)年10月8日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/files/44504_36643.html
  2. 青空文庫、2003年9月14日作成(底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日第4刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/3471_12377.html
  3. 青空文庫、2009年4月24日作成(底本:「日本プロレタリア文学集・26 小林多喜二集(一)」新日本出版社、1987(昭和62)年12月25日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000156/files/49181_34750.html
  4. 青空文庫、2009年12月8日作成(底本:「海野十三全集 第4巻 十八時の音楽浴」三一書房、1989(平成元)年7月15日第1版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/3532_37462.html
  5. 青空文庫、2015年7月31日作成、2015年8月29日修正(底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社、1987(昭和62)年5月25日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001620/files/54013_57279.html
  6. 青空文庫、2014年11月14日作成、2015年11月16日修正(底本:「新書太閤記(二)」吉川英治歴史時代文庫、講談社、2004(平成16)年1月9日第18刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/files/56633_55005.html
  7. 青空文庫、2015年9月1日作成(底本:「近代日本思想大系 9 丘浅次郎集」筑摩書房、1974(昭和49)年9月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001474/files/57163_57410.html
  8. 青空文庫、2005年5月6日作成(底本:「海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島」三一書房、1989(平成元)年4月15日第1版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/3527_18466.html
  9. 青空文庫、2011年3月29日作成(底本:「偶像再興・面とペルソナ 和辻哲郎感想集」講談社文芸文庫、講談社、2007(平成19)年4月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001395/files/49895_42654.html
  10. 青空文庫、2020年2月21日作成(底本:「久生十蘭全集 Ⅱ」三一書房、1992(平成4)年2月29日第1版第8刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001224/files/46091_70458.html
  11. 青空文庫、2002年5月14日作成、2012年9月15日修正(底本:「与謝野晶子評論集」岩波文庫、岩波書店、1994(平成6年)年6月6日10刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000885/files/3640_6556.html
  12. 青空文庫、2017年11月24日作成(底本:「中谷宇吉郎集 第二巻」岩波書店、2000(平成12)年11月6日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/57863_63337.html
  13. 青空文庫、2009年3月23日作成(底本:「出版人の遺文 岩波書店 岩波茂雄」栗田書店、1969(昭和44)年2月11日第2刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001119/files/49433_34736.html
  14. 青空文庫、2007年12月9日作成(底本:「花の名随筆1 一月の花」作品社、1998(平成10)年11月30日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001266/files/47234_29116.html
  15. 青空文庫、2005年3月17日作成、2016年7月12日修正(底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房、1989(平成元)年6月27日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1590_18115.html
  16. 「第197回国会 衆議院 厚生労働委員会 第5号 平成30年12月5日」国会会議録検索システム https://kokkai.ndl.go.jp/txt/119704260X00520181205/12 2022年9月16日参照。
  17. 青空文庫、2003年5月27日作成(底本:「寺田寅彦随筆集 第一巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店、1997(平成9)年12月15日第81刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2443_10322.html
  18. 青空文庫、2006年12月2日作成(底本:「『たぬき汁』以後」つり人ノベルズ、つり人社、1993(平成5)年8月20日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001248/files/46738_25677.html