トーク:冷徹

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
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用例探しの中で以下のような用例を見つけました。

  • 中流に遊んでいた山女魚やまめ上流へ上流へと遡り、夏には冷徹な渓水に棲みついてしまう。(佐藤垢石『木の葉山女魚』、ルビは引用者による)[1]
  • 秩父古生層の洒麗さいれいな岩の間から、滴り落ちるこの川の水は、冷徹そのものである。(佐藤垢石『水の遍路』)[2]

このような「冷たい」という意味での用例は別の著者の文章には見つけられず、辞書などでもその語義の記載を確認できていないため当著者の誤用の可能性もぬぐえないため、ノートページに記しておきます。--氷点下 (トーク) 2020年7月2日 (木) 12:32 (UTC)[返信]

他の作家のものにも類例がいくつかありますね。

  • 冷徹な水は、膝から腰へ、腰から胸へ、ひたひたと迫ってくる。(豊島与志雄『山上湖』)[3]
  • 白山小桜をはじめ、岩銀杏や深山毛莨、白山一華などの密布して咲きつづく処を、一足一足ためらいながら拾って、二、三十歩下りると、朝日岳山稜の雪田から滴る、凍結せんばかり冷徹な小流れが、白ら珠を転ばしている。(中村清太郎『ある偃松の独白』)[4]
  • 池は浅間大社のうしろの熔岩塊、神立山の麓から噴き出る水がたたえたもので、社の神橋の下をすみ切って流れる水は、夜目にも冷徹して、水底の細石までが、うろこが生えて、魚に化けそうだ。(小島烏水『不尽の高根』)[5]
  • その本流と付知川との合流点を右折して、その支流一名緑川を遡航する舷に、早くも照り映ったのは実にその深潭の藍碧であった。日本ラインにもかつて見なかったその水色のすさまじさは、まことに深沈たる冷徹そのものであった。(北原白秋『木曾川』)[6]

水だけでなく、月や星の光、雪の結晶、刀、朝の様子、酒のにおい、額の感触、眼光の形容としても用いられています。

  • 月の光は宵々ごとにその憂愁と冷徹さを深め、虫の音もだんだんとその音律が磨かれてくる。(薄田泣菫『木犀の香』)[7]
  • けさの空はうつくしかつた、月はもとより、明星のひかりが凄艶、いや冷徹であつた。(種田山頭火『其中日記』)[8]
  • 冷徹無比の結晶母体、鋭い輪廓、その中に鏤められた変化無限の花模様、それらが全くの透明で何らの濁りの色を含んでいないだけに、ちょっとその特殊の美しさは比喩を見出すことが困難である。(中谷宇吉郎『雪を作る話』)[9]
  • 縞目も分らぬ古錦の袋を開けば、年月の埃に黝んだ白鞘で、それでも研師にかけただけあって、中身は冷徹に冴え渡った大刀、相当の業物らしい。(豊島与志雄『怪異に嫌わる』)[10]
  • 校門を出るとき平一郎の背後で始業の鐘の音が冷徹な朝に響きわたって聞えた。(島田清次郎『地上 地に潜むもの』)[11]
  • 洋酒は音樂に近い。日本酒はさながら日本刀の味に似てゐる。あの清淨冷徹なにほひ、あの芳烈無比な味。(吉川英治『折々の記』)[12]
  • 彼女の顔の白布を少しめくって、その額に接吻した。冷徹な感触のうちに彼女を伴い去る気持ちで、私はそこを出て行った。(豊島与志雄『紫の壜』)[13]
  • 見あげるやうな長身で、中肉、禿でた額、こめかみにいつも浮んでゐる癇癖の筋、炯々といふよりは寧ろ冷徹な眼光、とほりのいい幅のひろい声音、独往無礙なその濶歩ぶり、(神西清『灰色の眼の女』)[14]

漢和辞典を見たら「冷徹」は和製漢語とのことで、中国語辞典にも載っていない語のようです。また、上に挙げたような用例はあるいは「冷冽」(漢和辞典には載っています)の影響または混用なのかもしれないとも思いました。--Ryota7906 (トーク) 2020年7月3日 (金) 13:38 (UTC)[返信]

  1. 青空文庫(2007年5月5日作成)(底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社 1992(平成4)年9月10日第1刷発行 底本の親本:「釣随筆」市民文庫、河出書房 1951(昭和26)年8月発行 初出:「釣趣戯書」三省堂 1942(昭和17)年発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001248/files/46781_26856.html 2020年7月2日参照。
  2. 青空文庫(2007年4月30日作成)(底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社 1992(平成4)年9月10日第1刷発行 底本の親本:「釣随筆」市民文庫、河出書房 1951(昭和26)年8月発行 初出:「釣りの本」改造社 1938(昭和13)年発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001248/files/46814_26788.html 2020年7月2日参照。
  3. 青空文庫(2008年1月16日作成)(底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」未来社 1965(昭和40)年6月25日第1刷発行 初出:「新潮」 1949(昭和24)年1月)https://www.aozora.gr.jp/cards/000906/files/42748_29484.html 2020年7月3日参照。
  4. 青空文庫(2020年3月28日作成)(底本:「ある偃松の独白」コマクサ叢書、朋文堂 1960(昭和35)年5月15日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001954/files/58704_70776.html 2020年7月3日参照。
  5. 青空文庫(2004年12月14日作成)(底本:「山岳紀行文集 日本アルプス」岩波文庫、岩波書店 1994(平成6)年5月16日第5刷発行 底本の親本:「小島烏水全集」大修館書店 1979(昭和54)年9月~1987(昭和62)年9月)https://www.aozora.gr.jp/cards/000027/files/2429_17226.html 2020年7月3日参照。
  6. 青空文庫(2015年5月24日作成)(底本:「日本八景 八大家執筆」平凡社ライブラリー、平凡社 2005(平成17)年3月10日初版第1刷 底本の親本:「日本八景―十六大家執筆」大阪毎日新聞社、東京日日新聞社 1928(昭和3)年8月15日再版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000106/files/56563_56988.html 2020年7月3日参照。
  7. 青空文庫(2002年1月28日公開 2006年1月2日修正)(底本:「花の名随筆10 十月の花」作品社 1999(平成11)年9月10日第1刷発行 底本の親本:「薄田泣菫全集 第五巻」創元社 1939(昭和14)年3月)https://www.aozora.gr.jp/cards/000150/files/3539_21026.html 2020年7月3日参照。
  8. 青空文庫(2009年1月15日作成)(底本:「山頭火全集 第四巻」春陽堂書店 1986(昭和61)年8月5日第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000146/files/47356_34230.html 2020年7月3日参照。
  9. 青空文庫(2012年12月6日作成)(底本:「中谷宇吉郎随筆集」岩波文庫、岩波書店 1988(昭和63)年9月16日第1刷発行 2011(平成23)年1月6日第26刷発行 底本の親本:「冬の華」岩波書店 1938(昭和13)年9月 初出:「東京朝日新聞」 1936(昭和11)年9月17日、18日)https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/53210_49744.html 2020年7月3日参照。
  10. 青空文庫(2006年4月26日作成)(底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社 1967(昭和42)年11月10日第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000906/files/42573_22881.html 2020年7月3日参照。
  11. 青空文庫(2006年3月28日作成 2015年4月12日修正)(底本:「地上――地に潜むもの」季節社 2002(平成14)年10月15日初版発行 底本の親本:「地上――第一部・地に潜むもの」新潮社 1919(大正8)年6月10日初版発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000595/files/46166_22431.html 2020年7月3日参照。
  12. 青空文庫(2013年10月6日作成)(底本:「折々の記」一家言叢書、全國書房 1942(昭和17)年5月10日初版発行 1943(昭和18)年3月1日4版発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/files/55316_51583.html 2020年7月3日参照。
  13. 青空文庫(2008年1月16日作成)(底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」未来社 1965(昭和40)年6月25日第1刷発行 初出:「明日」 1948(昭和23)年1月)https://www.aozora.gr.jp/cards/001562/files/55316_51583.html 2020年7月3日参照。
  14. 青空文庫(2012年1月15日作成)(底本:「雪の宿り 神西清小説セレクション」港の人 2008(平成20)年10月5日初版第1刷発行 底本の親本:「神西清全集 第三巻」文治堂書店 1961(昭和36)年10月31日 初出:「思索」 1946(昭和21)年10月)https://www.aozora.gr.jp/cards/001157/files/49847_46683.html 2020年7月3日参照。