嚢中の錐

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日本語[編集]

成句[編集]

嚢中ノウチュウスイ

  1. 才能ある人は、殊更それを主張しなくても自ずと目立ってくるものであるというたとえ。
    • 俊才嚢中の錐の如き彼は、直に部将井上九郎光盛をして赤旗を立てて前ましめ、彼自らは河を済り、戦鼓をうつて戦を挑み、平軍の彼が陣を衝かむとするに乗じて光盛等をして、赤旗を倒して白旗を飜し、急に敵軍を夾撃せしめて大に勝ち、遂に長茂をして越後に走らしめたり。(芥川龍之介『木曾義仲論(東京府立第三中学校学友会誌)』)
    • 氏郷は「きりふくろにたまらぬ風情の人」だと記されて居るから、これも随分恐ろしい人だ。(幸田露伴 『蒲生氏郷』)
    • あたかもふくろの中に詰つめられて出る事のできない人のような気持がするのです。私は私の手にただ一本のきりさえあればどこか一カ所突き破って見せるのだがと、焦燥あせり抜ぬいたのですが、あいにくそのは人から与えられる事もなく、また自分で発見する訳にも行かず、ただ腹の底ではこの先自分はどうなるだろうと思って、人知れず陰欝いんうつな日を送ったのであります。(夏目漱石『私の個人主義』)

由来[編集]

  • 史記・平原君伝』中の「夫賢士之処世也、譬若錐之処嚢中、其末立見」より。
    戦国時代、趙が秦に攻められた際、趙の平原君が楚に支援を求める使いとなるのに同行する者を食客の中から選んだ時、毛遂という者が自薦してきた。平原君は、「才能ある者は、袋の中の錐のようなもので、袋をつきやぶって目につくものだが、あなたは今まで目立つことはなかった」と難色を示した。「私は今日こそ嚢中に入りたいと思います。私を早くから嚢中に入れておけば、先どころか柄まで出ていましたよ」との毛遂の返答を気に入った平原君は同行させたところ、はたして楚との同盟に決定的な活躍を見せ、平原君はこれを喜ぶ一方で、人を見る目の不足を深く反省したという故事による。

関連語[編集]

翻訳[編集]