倍する

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
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日本語[編集]

動詞[編集]

する (ばいする)

  1. (自動詞, 文章語) である。(○○に倍する」の形で)○○と比較して倍である。
    • 1938年、坂口安吾「閑山」[1]
      ただ自らの笑声のみ妖しく耳にたつことを知ったとき、むんずと組みついた者のために、旅人はすんでに捩じ伏せられるところであった。必死の力でふりほどき、逃れようと焦ってみたが、絡みつく者は更に倍する怪力であった。
    • 1952年、相馬愛蔵「私の小売商道」[2]
      この際に喫茶部を経営される方に一言呈したいことは、やはりこれと同種の理由にて計画は平日を標準として、少しく内輪にすることであります。近くに野球場があるとか、祝祭日とかにて平日に倍する客のある事を目当てに手広く設計する事は絶対にしてはいけません。
  2. (自動詞, 文章語) 増す大きくなる。
    • 1937-1946年、横光利一「旅愁」[3]
      パリにいるときさまざまな議論をしたことなど考えると、久慈への懐しさは日に倍して来て、彼はもう永らく一言も饒舌らぬ日本語をぶつぶつと久慈に向ってひとり呟くほどだったが、まだ言葉の分らぬこの一人旅行の楽しさは、今も何物にも換え難かった。
    • 1925年、豊島与志雄「公孫樹」[4]
      その頃から、父は元のように元気になり、頭もよくなったとみえて、前に倍して働き初めた。そして二年後には、本当に家を買い取ってしまった。
  3. (他動詞, 文章語) にする。
    • 1905年、夏目漱石「幻影の盾」[5]
      城壁の高さは四丈、丸櫓の高さはこれを倍して、所々に壁を突き抜いて立つ。天の柱が落ちてその真中に刺された如く見ゆるは本丸であろう。
    • 1916年、森鴎外「渋江抽斎」[6]
      質流になった時、この仏像を池田瑞長が買った。然るに東堂は後金が出来たので、瑞長に交渉して、価を倍して購い戻そうとした。瑞長は応ぜなかった。

活用[編集]

倍-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形


する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 倍しない 未然形 + ない
否定 倍せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
倍される 未然形 + れる
丁寧 倍します 連用形 + ます
過去・完了・状態 倍した 連用形 +
言い切り 倍する 終止形のみ
名詞化 倍すること 連体形 + こと
仮定条件 倍すれば 仮定形 +
命令 倍せよ
倍しろ
命令形のみ

[編集]

  1. 青空文庫、2019年1月29日作成(底本:「桜の森の満開の下」講談社文芸文庫、講談社、2015(平成27)年4月15日第47刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/57479_66977.html
  2. 青空文庫、2004年12月11日作成、2011年4月4日修正(底本:「相馬愛蔵・黒光著作集4」郷土出版社、1981(昭和56)年6月5日初版発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001147/files/43527_17334.html
  3. 青空文庫、2001年9月13日公開、2007年9月1日修正(底本:「旅愁 上」「旅愁 下」講談社文芸文庫、講談社、1998(平成10)年11月10日第1刷(上)、1998(平成10)年12月10日第1刷(下))https://www.aozora.gr.jp/cards/000168/files/2246_20011.html
  4. 青空文庫、2007年11月27日作成(底本:「豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ」未来社 、1965(昭和40)年12月15日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000906/files/42436_28812.html
  5. 青空文庫、1998年9月19日公開、2004年2月28日修正(底本:「倫敦塔・幻影の盾」新潮文庫、新潮社、1997(平成9)年4月25日69刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/780_14966.html
  6. 青空文庫、2005年10月1日作成、2019年1月29日修正(底本:「渋江抽斎」岩波文庫、岩波書店、1999(平成11)年5月17日改版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/2058_19628.html