托する

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
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日本語[編集]

動詞[編集]

する (たくする)

  1. (他動詞, 文章語) 〔物品や身体を〕重みをしっかり支えさせるようにして物の上に置く。
    • 1915年、木暮理太郎「釜谷の奥」[1]
      根曲り竹に足を托して其処まで攀じ登ろうとしたが、滑り落ちる許りで登れそうにもない。金作が見兼ねて「俺しが先へ登ろう」といきなり守宮の如く壁面に吸い付いて、体をうねらせながら登った。
    • 1924年、芥川龍之介「鷺と鴛鴦」[2]
      電車はこみ合つてはゐなかつたものの、空席はやつと一つしかない。しかもその空席のあるのは丁度僕の右鄰である。鷺は姉さん相当にそつと右鄰へ腰を下した。鴛鴦は勿論姉の前の吊り革に片手を托してゐる。
    • 1936年、豊島与志雄「坂田の場合」[3]
      坂田は椅子に深く身を托して、返事を待っていた。敏子は彼の顔を見つめたまま黙っていた。
  2. (他動詞) その他「託する」に同じ。
    • 1924年、芥川龍之介「文芸鑑賞講座」[4]
      その証拠には歌人などに万葉時代の言葉を使つて歌を作る人がゐると、耳遠い古語を使ふのは怪しからぬと言ふ非難を生じます。が、古語に通じないのは歌人の知つたことではありません。歌人は古語でも新語でも好い、只歌人自身の生命を托し得る言葉を使ふのであります。
    • 1938年、岩波茂雄「岩波文庫論」[5]
      岩波文庫は平福百穂画伯の装幀をもって昭和二年刊行された。これを発表した時の影響の絶大なりしことは実に驚いた。讃美、激励、希望等の書信が数千通に達した。「私の教養の一切を岩波文庫に托する」などという感激の文字もあった。
    • 1949年、坂口安吾「復員殺人事件」[6]
      安彦は応召の前夜、昭和十七年の日記帳を厳重に封じて、ひそかに美津子に托して行った。自分が戦死した時に、中をあけて見るように、と言い残して。

活用[編集]

托-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形


する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 托しない 未然形 + ない
否定 托せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
托される 未然形 + れる
丁寧 托します 連用形 + ます
過去・完了・状態 托した 連用形 +
言い切り 托する 終止形のみ
名詞化 托すること 連体形 + こと
仮定条件 托すれば 仮定形 +
命令 托せよ
托しろ
命令形のみ

関連語[編集]

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  1. 青空文庫、2013年9月23日作成(底本:「山の憶い出 上」平凡社ライブラリー、平凡社、1999(平成11)年6月15日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001373/files/55994_51330.html
  2. 青空文庫、2007年6月26日作成(底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房、1979(昭和54)年4月10日初版第11刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3816_27302.html
  3. 青空文庫、2008年4月16日作成(底本:「豊島与志雄著作集 第三巻(小説Ⅲ)」未来社、1966(昭和41)年8月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000906/files/42466_31208.html
  4. 青空文庫、2007年4月13日作成(底本:「芥川龍之介全集 第十一巻」岩波書店、1996(平成8)年9月9日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/46227_26608.html
  5. 青空文庫、2009年3月23日作成(底本:「出版人の遺文 岩波書店 岩波茂雄」栗田書店、1969(昭和44)年2月11日第2刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001119/files/49433_34736.html
  6. 青空文庫、2016年6月18日作成(底本:「坂口安吾全集 08」筑摩書房、1998(平成10)年9月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43163_59485.html