僭する

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
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日本語[編集]

動詞[編集]

する (せんする)

  1. (他動詞, 文章語)他者他事を〕自分の身の程わきまえずに真似る
    • 1935年、戸坂潤「日本イデオロギー論」[1]
      この論述に『日本イデオロギー論』という名をつけたのは、マルクスが、みずからを真理と主張し又は社会の困難を解決すると自称するドイツに於ける諸思想を批判するに際して、之を『ドイツ・イデオロギー』と呼んだのに傚ったのだが、それだけ云えば私がこの書物に就いて云いたいと思うことは一遍に判ると思う。無論私は自分の力の足りない点を充分に知っていると考えるので、敢えてマルクスの書名を僭する心算ではないのである。
    • 1936年、倉田百三「愛と認識との出発」[2]
      で私はここにあなたに反省を促すべき第一のことに逢着する。全寮茶話会の夜は無事に済んでよかったが、あなたはこれに類する、他人の思想を僭するような危険な地位にこれまで幾度も立たれはしなかったろうか。また今のままでゆけば将来も立たれはしまいか。
  2. (他動詞, 文章語) 〔自分の身の程を超えた名前称号を〕名乗る僭称する。
    • 1913年、桑原隲藏「秦始皇帝」[3]
      所が春秋時代となつて、周の王室が衰微すると、楚・呉・越等南蠻の國君が王號を僭し初め、降つて戰國時代となると、中國の諸侯達も亦之に倣ひ、最後に陪臣より諸侯となつた韓・魏・趙の三晉の君すら王と稱して、王號の價値は甚だ低落して來た。
    • 1919年、与謝野晶子「教育の民主主義化を要求す」[4]
      殊に私の不快に思うことは、読本に挿まれた長い詩や唱歌が(昭憲皇后の御製は別として)口語体のも、文章体のも、すべて詩歌としての価値を持っていない事です。散文が既に悪文であるのに、更に一層拙悪野卑な散文の横書きを以て詩歌の名を僭しているのです。

活用[編集]

僭-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形


する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 僭しない 未然形 + ない
否定 僭せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
僭される 未然形 + れる
丁寧 僭します 連用形 + ます
過去・完了・状態 僭した 連用形 +
言い切り 僭する 終止形のみ
名詞化 僭すること 連体形 + こと
仮定条件 僭すれば 仮定形 +
命令 僭せよ
僭しろ
命令形のみ

[編集]

  1. 青空文庫、2010年5月27日作成、2016年10月16日修正(底本:「戸坂潤全集 第二巻」勁草書房、1970(昭和45)年9月10日第7刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000281/files/3596_39403.html
  2. 青空文庫、2002年3月18日公開、2005年12月6日修正(底本:「愛と認識との出発」角川文庫、1982(昭和57)年12月20日改版31版)https://www.aozora.gr.jp/cards/000256/files/2590_20695.html
  3. 青空文庫、2001年10月1日公開、2004年2月21日修正(底本:「桑原隲藏全集 第一卷 東洋史説苑」岩波書店、1968(昭和43)年2月13日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000372/files/3412_14880.html
  4. 青空文庫、2002年5月14日作成、2012年9月15日修正(底本:「与謝野晶子評論集」岩波文庫、岩波書店、1994(平成6年)年6月6日10刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000885/files/3640_6556.html