失する

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

日本語[編集]

動詞[編集]

する (しっする)

  1. (他動詞) 〔抽象名詞を、特にあるべきものや望ましいものを目的語にして〕うしなう
    • 1924年、豊島与志雄「好意」[1]
      裏面にいろんな事情や感情が絡んでいたかも知れないし、話の正鵠を失することがあるかも知れないが、私としてはただ、眼に触れ耳に触れたことだけを、そのまま物語るの外はない。
    • 1944年、太宰治「津軽」[2]
      泥酔などして礼を失しない程度ならば、いいのである。当り前の話ではないか。私はアルコールには強いのである。
  2. (自動詞) 過ぎ失敗する。〔「~に失する」の形で〕~過ぎる。~過ぎて失敗する。
    • 1925年、柳田国男「山の人生」[3]
      ましてや世界の諸民族に共通なる、いわゆるビートス・エンド・ビウティーの物語の、これが根原の動機をなすかのごとく、説かんとすることは速断に失するであろう。
    • 1951年、岸田國士「あるニュウ・フェイスへの手紙」[4]
      しかし、そのセリフの文体に至っては、韻文詩劇として、古今稀にみる奇想と名調子とに満ち満ちている。甘美にすぎて、悪趣味に陥らず、滑稽をねらって軽きに失しない程のよさは、フランス人を無条件に酔わせるというところがあります。

活用[編集]

失-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形

する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 失しない 未然形 + ない
否定 失せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
失せられる 未然形 + られる
丁寧 失します 連用形 + ます
過去・完了・状態 失した 連用形 +
言い切り 失する 終止形のみ
名詞化 失すること 連体形 + こと
仮定条件 失すれば 仮定形 +
命令 失せよ
失しろ
命令形のみ

[編集]

  1. 青空文庫(1999年5月21日公開、2018年7月24日修正。底本:「豊島与志雄著作集 第二巻(小説Ⅱ)」1965(昭和40)年12月15日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000906/files/42430_28071.html
  2. 青空文庫(1999年5月21日公開、2018年7月24日修正。底本:「太宰治全集第六巻」筑摩書房、1990(平成2)年4月27日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2282_15074.html
  3. 青空文庫(2013年4月13日作成、2016年7月1日修正。底本:「遠野物語 山の人生」岩波文庫、岩波書店、2010(平成22)年3月5日第50刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/files/52505_50610.html
  4. 青空文庫(2012年4月15日作成。底本:「岸田國士全集28」岩波書店、1992(平成4)年6月17日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/files/44833_47596.html