発する

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
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日本語[編集]

動詞[編集]

する (はっする)

  1. (自動詞, 文章語) 出発する。
    • 1895年、泉鏡花「取舵」[1]
      時に九月二日午前七時、伏木港を発する観音丸は、乗客の便を謀りて、午後六時までに越後直江津に達し、同所を発する直江津鉄道の最終列車に間に合すべき予定なり。
    • 1910年、柴崎芳太郎「越中劍岳先登記」[2]
      余は三十六年頃より三角点測量に従事して居ますが、去四月二十四日東京を発して当県に来る事となりました
  2. (他動詞) 音声や光、においなどがあらわれでる。はなつ
    • 1930年、北大路魯山人「数の子は音を食うもの」[3]
      数の子は他の魚とちがい、親にしんの胎中にいる時から、乾物を水でもどしたものとほぼ同じ硬さをもっていて、生で食べてもパリパリ音を発するものである。
    • 1939年、中谷宇吉郎「兎の耳」[4]
      Tさんは前に兎に発熱療法を行って見ようと思って、硫黄を注射したことがあったそうである。ところが人間の場合ならば大変の高熱を発する量に相当する以上の分量を注射して見ても、兎は一向平気な顔をしていた。
  3. (他動詞) 原因とする。起源とする。
    • 1936年、島崎藤村「夜明け前」[5]
      四人の外人の死傷に端緒を発する生麦事件は、これほどの外交の危機に推し移った。多年の排外熱はついにこの結果を招いた。
    • 1942年、佐藤垢石「水と骨」[6]
      遠く加賀の白山の裏川から源を発する射水川、越中立山の西北から出る神通川も共に、日本海へ注ぐのではあるが、上の保、吉田、板取、揖斐の各支流を集め、木曾の奥から出てくる木曾川に合する長良川の方が、太平洋に向いているにも拘わらず水温が低い。
  4. (自動詞) (「~に発する」や「~から発する」で)~を原因とする。~を起源とする。
    • 1949年、吉田秀夫訳、トマス・ロバト・マルサス「人口論」[7]
      しかしながら、この種のあらゆる障害は、法律に発するものであろうと習慣に発するものであろうと、今では全然除かれてしまった。何歳であろうと結婚は全く自由であり、司令官の認可も僧侶の認可もいらない。
    • 1961年、外村繁「日を愛しむ」[8]
      が、なくなるはずのものが、あるのである。私の恐怖はこの存在することの不安から発しているようである。
  5. (他動詞) 命令通知を広く伝える。
    • 1929年、平林初之輔「私はかうして死んだ!」[9]
      だがもし私が、大罪をおかして死刑にでもなるとしたら、裁判官はいったい誰に死刑の宣告を下すだろう。死んでしまった私にもう一度死刑を宣告するだろうか? もし私が何かの罪で逮捕されるとしたら判事は誰に向かって令状を発するだろうか?
    • 1950年、坂口安吾「安吾巷談」[10]
      美神アロハは生きている。否、生きているどころか、指令を発し、現に美のもろもろはアロハの大きな手におさえられているのである。
  6. (他動詞) 言葉や考えを声に出して述べる。
    • 1935年、北大路魯山人「道は次第に狭し」[11]
      先日、ある雑誌記者来訪、「ものを美味く食うにはどうすればいいか」とたずねた。世の中には、ずいぶん無造作に愚問を発する輩があるものだ。
    • 1944年、太宰治「佳日」[12]
      「いや。ちょっと。」私はわけのわからぬ言葉を発して、携帯の風呂敷包を下駄箱の上に置き、素早くほどいて紋附羽織を取出し、着て来た黒い羽織と着換えたところまでは、まずまず大過なかったのであるが、それからが、いけなかった。
  7. (他動詞) ある位置始点として、遠方へ短時間に移動させる。発射する。
    • 1946年、太宰治「庭」[13]
      しかし、二度も罹災して二人の幼児をかかえ、もうどこにも行くところが無くなったので、まあ、当ってくだけろという気持で、ヨロシクタノムという電報を発し、七月の末に甲府を立った。
    • 1948年、海野十三「怪星ガン」[14]
      同号は、非常のときに五種の救難信号を発するように設備せられていますが、いままでにその一つもつかまらないのであります。

活用[編集]

発-する 動詞活用表日本語の活用
サ行変格活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形

する する すれ せよ
しろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 発しない 未然形 + ない
否定 発せず 未然形 +
自発・受身
可能・尊敬
発せられる 未然形 + られる
丁寧 発します 連用形 + ます
過去・完了・状態 発した 連用形 +
言い切り 発する 終止形のみ
名詞化 発すること 連体形 + こと
仮定条件 発すれば 仮定形 +
命令 発せよ
発しろ
命令形のみ

成句[編集]

[編集]

  1. 青空文庫(2006年9月18日作成。底本:「新潟県文学全集 第1巻 明治編」郷土出版社、1995(平成7)年10月26日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/45755_24359.html
  2. 青空文庫(2010年2月21日作成。底本:「山の旅 明治・大正篇」岩波文庫、岩波書店、2004(平成16)年2月14日第3刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001372/files/49579_38119.html
  3. 青空文庫(2012年8月7日作成。底本:「魯山人味道」中公文庫、中央公論社、2008(平成20)年5月15日改版14刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001403/files/54948_48391.html
  4. 青空文庫(2020年4月28日作成。底本:「中谷宇吉郎集 第二巻」岩波書店、2000(平成12)年11月6日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/57862_70990.html
  5. 青空文庫(2001年5月24日公開、2010年11月2日修正。底本:「夜明け前 第一部(上)」岩波文庫、岩波書店、1969(昭和44)年1月16日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000158/files/1504_14585.html
  6. 青空文庫(2007年5月5日作成。底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社、1992(平成4)年9月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001248/files/46813_26854.html
  7. 青空文庫(2008年11月28日作成。底本:「各版對照 マルサス 人口論Ⅱ」春秋社、1949(昭和24)年1月10日初版)https://www.aozora.gr.jp/cards/001149/files/45455_33437.html
  8. 青空文庫(2013年10月11日作成。底本:「澪標・落日の光景」講談社文芸文庫、講談社、1992(平成4)年6月10日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001499/files/51276_51592.html
  9. 青空文庫(2010年7月4日作成、2011年2月23日修正。底本:「平林初之輔探偵小説選Ⅰ〔論創ミステリ叢書1〕」論創社、2003(平成15)年10月10日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000221/files/48099_39671.html
  10. 青空文庫(2006年1月10日作成。底本:「坂口安吾全集 08」筑摩書房、1998(平成10)年9月20日初版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43180_21392.html
  11. 青空文庫(2013年5月14日作成。底本:「魯山人味道」中公文庫、中央公論社、2008(平成20)年5月15日改版14刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/001403/files/54984_50784.html
  12. 青空文庫(2005年10月7日作成。底本:「太宰治全集6」ちくま文庫、筑摩書房、1989(昭和64)年2月28日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/43423_19791.html
  13. 青空文庫(2000年2月1日公開、2005年11月4日修正。底本:「太宰治全集8」ちくま文庫、筑摩書房、1989(平成元)年4月25日第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/302_20159.html
  14. 青空文庫(2001年7月21日公開、2006年7月27日修正。底本:「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」三一書房、1992(平成4)年2月29日第1版第1刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/2638_23933.html