転じる

出典: フリー多機能辞典『ウィクショナリー日本語版(Wiktionary)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

日本語

[編集]

動詞

[編集]

じる (てんじる)

  1. (自動詞) 変わる移行する。
    • 1925年、喜田貞吉「人身御供と人柱」[1]
      賽銭はすなわち供物代で、もとは神に奉仕するものに銭貨を委托して、適当なる供物を調進して捧げてもらうの意味である。そしてそれが転じて、地鎮の場合にもただちに銭貨を埋める事になる。
    • 1935年、小栗虫太郎「潜航艇「鷹の城」」[2]
      墺軍は、俄然そこで攻勢に転じた。まず、イゾンゾ方面に、兵力集結の偽装をおこない、そうして、伊軍の注意を、その方面に牽きつけておいて、その間に、こっそり攻勢の準備を整えていた。
    • 1952年、坂口安吾「明治開化 安吾捕物」[3]
      こう説明を終えた新十郎は驚くべき早さで立ち去る構えに転じていた。
  2. (自動詞) 自身の職業勤め先商売専門などを変える転身する。
    • 1908年、寺田寅彦「わが中学時代の勉強法」[4]
      それで、なるべくこれをどこまでも研究してみようという考えを起こさぬでもなかったが、ある都合上高等学校では工科にはいり、三年の時改めて物理に転じ、もって今日に至ったのである。
    • 1912年、島崎藤村「千曲川のスケッチ」[5]
      茂十郎さんの家では、もと酒屋であったが、造酒は金を寝かして商法に働きの少いのを見て取り、それから茶商に転じたという。
    • 1928年、岡本綺堂「兜」[6]
      かれは無事に明治時代の人となって、最初は小学校の教師を勤め、さらに或る会社に転じて晩年は相当の地位に昇った。
  3. (自動詞) 住処や活動場所を変える。転居する。
    • 1916年、内田魯庵「硯友社の勃興と道程」[7]
      それから後、南榎町に転じてから今の未亡人を迎えて沈着いて来た。
    • 1921年、寺田寅彦「球根」[8]
      その西洋人が去年シャンハイへ転じて行く時に、姉の貸し家の畑へ置きみやげにいろいろなものを残して行っただろうという事は、きわめてありそうな事である。
    • 1929年、高村光雲「幕末維新懐古談」[9]
      堀田原の家は師匠在生中、蔵前に移ったにつき、同所は火堅い所故、別段立ち退き用心の家も不必要の所から堀田原の家は売られましたので、私は寿町へ転じました。
  4. (他動詞) 変える移行させる。
    • 1934年、宮本百合子「近頃の感想」[10]
      さて、私はここで話題を転じ、そもそも文学作品の批評というものは、本来的にいって誰のためにされるべきものであるかということについては、はっきりさせておきたいと思う。
    • 1935年、寺田寅彦「颱風雑俎」[11]
      十九日の晩ちょうど台湾の東方に達した頃から針路を東北に転じて二十日の朝頃からは琉球列島にほぼ平行して進み出した。
    • 1962年、梅崎春生「記憶」[12]
      後頭部からバックミラーに視線を転じた時、彼は卒然として思い起した。

活用

[編集]
てん-じる 動詞活用表日本語の活用
ザ行上一段活用
語幹 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形
てん じる じる じれ じよ
じろ
各活用形の基礎的な結合例
意味 語形 結合
否定 てんじない 未然形 + ない
意志・勧誘 てんじよう 未然形 + よう
丁寧 てんじます 連用形 + ます
過去・完了・状態 てんじた 連用形 +
言い切り てんじる 終止形のみ
名詞化 てんじること 連体形 + こと
仮定条件 てんじれば 仮定形 +
命令 てんじよ
てんじろ
命令形のみ

関連語

[編集]

[編集]
  1. 青空文庫、2010年9月4日作成(底本:「先住民と差別 喜田貞吉歴史民俗学傑作選」河出書房新社、2008(平成20)年1月30日初版発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001344/files/49818_40533.html
  2. 青空文庫、2007年2月20日作成(底本:「潜航艇「鷹の城」」現代教養文庫、社会思想社、1977(昭和52)年12月15日初版第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000125/files/43656_26294.html
  3. 青空文庫、2006年5月23日作成、2016年3月31日修正(底本:「坂口安吾全集 10」筑摩書房、1998(平成10)年11月20日初版第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43217_23309.html
  4. 青空文庫、2003年4月28日作成(底本:「日本の名随筆 別巻85 少年」作品社、1998(平成10)年3月25日第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/1695_10185.html
  5. 青空文庫、2001年1月9日公開、2004年2月6日修正(底本:「千曲川のスケッチ」新潮文庫、新潮社、1998(平成10)年8月25日68刷)https://www.aozora.gr.jp/cards/000158/files/1503_14594.html
  6. 青空文庫、2006年10月31日作成(底本:「鷲」光文社文庫、光文社、1990(平成2)年8月20日初版1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45482_24685.html
  7. 青空文庫、2014年6月12日作成(底本:「新編 思い出す人々」岩波文庫、岩波書店、2008(平成20)年7月10日第3刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000165/files/49567_53842.html
  8. 青空文庫、1999年11月17日公開、2003年10月22日修正(底本:「寺田寅彦随筆集 第一巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店、1997(平成9)年12月15日第81刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2333_13492.html
  9. 青空文庫、2006年9月8日作成(底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店、1995(平成7)年1月17日第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000270/files/46398_24247.html
  10. 青空文庫、2003年1月16日作成(底本:「宮本百合子全集 第十巻」新日本出版社、1986(昭和61)年3月20日第4刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000311/files/2854_8465.html
  11. 青空文庫、2003年10月23日作成(底本:「寺田寅彦全集 第七巻」岩波書店 、1997(平成9)年6月5日発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/4670_13511.html
  12. 青空文庫、2016年3月4日作成、2016年8月11日修正(底本:「ボロ家の春秋」講談社文芸文庫、講談社、2000(平成12)年1月10日第1刷発行)https://www.aozora.gr.jp/cards/001798/files/56774_58849.html